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過去に行った難しい手術

自己紹介

1991年ミュンヘンから帰国。ほぼ2年間ミュンヘン工科大学、流体力学科に留学しました。英語でなくドイツ語での日常、医学部でなく工学部での研究生活と、苦労の連続でしたが、この苦労が私を鍛えてくれました。
1992年から1998年までの6年間は高倉公朋教授の下で、数多くの急性期くも膜下出血の治療をICU医長として行い、また川崎医科大学ME教室(梶谷文彦教授)、東京理科大学、芝浦工科大学、理化学研究所(貝原眞教授)と共同研究を始めました。動物を用いた脳動脈瘤の研究とモデルを用いた流体力学実験を進めました。私の研究成果のほとんどはこの頃になされたものです。
1999年から2009年までの期間に巨大血栓化動脈瘤、巨大脳動静脈奇形、脳幹部海綿状血管腫といったそれまで手術が困難とされていた手術に数多く挑戦しました。また、理化学研究所の研究員となり、人工血管の開発に着手しました。理化学研究所では、数多くの論文を書いただけでなく、数々の特許を取得し、理研ベンチャーメディカルイオンテクノロジーも立ち上げました。
2009年4月から東京労災病院に脳神経外科部長として赴任しました。東京労災病院に移動してからは、理化学研究所との共同研究だけでなく、東京工業大学との共同研究にも着手し、それを基礎に大田区産業振興会と一緒に大田区での医工連携を推進しています。
2019年からは麹町で開業する一方、鎌ケ谷総合病医院で脳神経外科部長という2足のわらじを履いています。開業では脳神経外科の知識だけでなく、内科に至るまで広く医学知識を深め、鎌ケ谷総合病院では今までの数多くの経験を生かして慎重な手術を目指しています。

私が過去に執刀した、いわゆる難しい手術の手術成績を紹介します。

困難な手術

1) 脳動脈瘤の手術(東京女子医科大学での症例)

2003年4月~2012年3月までの約10 年間に脳動脈瘤手術359症例を施行、そのうち140症例がくも膜下出血症例で急性期でした。難易度の高い後方循環脳動脈瘤の手術は62症例あり、中でも脳底動脈分岐部動脈瘤は16症例あった。1例は聴神経腫瘍に合併した症例で術後に片麻痺を合併したが、他の15例はすべて手術による合併症は生じなかった。椎骨動脈血栓化巨大動脈瘤は、12例執刀したが、1例術後転院後に窒息死した。今でもその患者さんとご家族が記憶に強く残っている。
また、脳動脈瘤のトラッピングのために血行再建術を必要とした手術は、STA-MCAまたはOA-PICA 吻合術:10症例、橈骨動脈を用いたhigh flow bypass:8症例であり、血行再建術は全例で成功し、吻合した血管が閉塞した症例はなかった。

現在の鎌ケ谷総合病院、脳神経外科では、大きな脳動脈瘤は、ほとんどすべて血管内外科で治療しています。しかし脳動脈瘤が大きすぎる場合、分岐部の動脈を犠牲にせざるを得ないような場合には、閉塞が予想される血管にターゲットバイパスを行っています。

この図は右内頸動脈瘤(ICPC aneurysm)から出ている後大脳動脈に浅側頭動脈をバイパスした前後の造影CT(3D CTA)です。血管内外科で脳動脈瘤にコイルを入れると後交通動脈が閉塞し、脳梗塞を発症する恐れがあるために、血管内外科の治療の前にバイパスを行ったのです。

術中写真が左です。後交通動脈に浅側頭動脈の断端が縫い合わされています。約0.4mm間隔で縫われています。右は術後の脳血管撮影で、浅側頭動脈が後大脳動脈にバイパスされているのがよく見えます。

2) 血栓化巨大脳底動脈瘤 (dolichoectatic basilar aneurysm)

もっとも予後不良で3年以内に死亡する確率が80%を越えると報告されている。通常のclipping等の外科的治療法が困難なため、脳底動脈閉塞+橈骨動脈を用いた深部血行再建術を4症例で旭川赤十字病院上山博康先生とともに行った。手術結果は血行再建術を行ったにもかかわらず、術後に脳幹部梗塞を合併し、手術成績は芳しくなく4例中1例のみが社会復帰が出来ました。これらの手術方法と手術成績は脳卒中外科学会で報告し論文とした。東京労災病院に赴任してからは、この動脈瘤のバイパスによる手術を行っていない。

現在の鎌ケ谷総合病院では、このような血栓化巨大脳動脈瘤の治療は、最初に100mmHg以下の低血圧の誘導を行い、数年かけて経過観察を行ったのちに、主幹動脈にflow diverterというステントを留置し、動脈瘤と接する動脈壁の内皮化を誘導し、動脈瘤の吸収を促す治療法を取っています。動脈壁の内皮化までには1年近くを必要とし、また血栓の吸収にはさらに年単位の日数が必要になります。

左椎骨動脈から脳底動脈にかけて出来た血栓化巨大脳動脈瘤に対して、最初に低血圧療法を行い、巨大脳動脈瘤の血栓化を十分に進行させた後に椎骨動脈から脳底動脈へとflow diverter (Pipeline stent)を留置したのが右図である。左図のMRAでは丸くゴツゴツした血栓化動脈瘤を認める。

3) 脳幹部海綿状血管腫 (pontine cavernoma) の手術

脳幹部の手術は手術合併症が無視できず、敬遠されてきたが、東京女子医科大学で9症例、東京労災病院で6例のpontine cavernomaの摘出手術を行った。1例で術後2度にわたって再発し摘出術を合計3度行った結果、顔面神経麻痺、眼球運動障害、小脳症状を術後に生じ、顔面神経再建術および眼球固定術を必要とした。1例では術後に小脳症状が残存し、現在もリハビリを継続している。他の13症例は社会復帰した。

 

現在の鎌ケ谷総合病院では、脳幹部海綿状血管腫に対して出来る限り内科的な投薬で治療を行っています。海綿状血管腫は、静脈性奇形であり、少しずつ海綿状血管腫の壁から血液が漏出し、その部位に炎症を起こしながら大きくなっていきます。そのため、海綿状血管腫からの血液の漏出を抑えそして炎症を改善するために、スタチンとEPA(エイコサペンタ酸、必須脂肪酸で魚の脂です)そしてビタミンCを飲んでもらいます。この2種類の薬によって、血管内皮細胞の強化がなされ、血液の漏出は抑制されます。ビタミンCの抗酸化作用、コラーゲン産生の補酵素としての働きは血管壁を強くします。この投薬を維持しながら、MRIの画像診断によって海綿状血管腫の長期観察を行います。たいていの海綿状血管腫は、長期観察をしますと脳幹部の神経核に押されて、血管腫は脳幹の表面へと押し出されていきます。海綿状血管腫が脳幹の表面の顔を出せば、そして小さくなれば、摘出術が上手くいく可能性が非常に高くなります。しかし脳幹をすべて占拠するように大きくなった海綿状血管腫であれば、摘出術のみが命を救う手段になります。

この症例では中脳から視床に至るまでの巨大海綿状血管腫を認める。巨大海綿状血管腫が周囲の脳組織を圧迫するために瀕死の状態であった。小脳の上を通るルートで2回にわたって摘出術を行ったのが右図である。海綿状血管腫はほぼ全摘され、脳幹は元の大きさに復元するという可塑性を見せている。このように大きな海綿状血管腫では、一度目は半分程度摘出して脳幹の圧迫を減らしてから、2度目の手術で全摘をするのが良い。

4) 巨大脳動静脈奇形 (huge AVM [Spetzler Grade V]) の手術(東京女子医科大学の症例)

もっとも術後合併症の確率が高い脳神経外科の手術に、巨大脳動静脈奇形の手術がある。
現在までに6cm以上の大きさの脳動静脈奇形10例の摘出術を行った。1例で術中に Normal perfusion pressure breakthrough syndrome が生じAVM摘出後の出血が容易に止められず、術後に左片麻痺、左同名半盲を合併した。しかし19歳と若い年齢であったため脳の可塑性が強く社会復帰できた。
前頭葉巨大AVMの2例では術後にocclusive hyperemia(AVM摘出に伴って深部drainerの閉塞が生じ脳出血を併発する病態)を生じ、術後3日目と7日目に脳内出血を合併し死亡した。術前、術後を通して神経学的に異常を認めずに回復した症例は4例(側頭葉AVM2例、後頭葉AVM2例)であった。

現在の鎌ケ谷総合病院では、巨大脳動静脈奇形の摘出術は積極的に行っていません。脳動静脈奇形の血流を突然止める場合、摘出術、塞栓術でも、どちらでも、脳の血行動態に大きな影響を与えます。そのため、術後に治療の難しい脳浮腫やてんかん発作が起きることが予想されます。むしろ、何も治療しない方が、脳動静脈奇形は出血しない場合が多いと思われます。脳動静脈奇形には、nidusという血管の塊に入り込むfeederという動脈、そしてnidusから流出するdrainerという血管があります。nidusから流出するdrainerが一本だけという場合、drainerが早い血流によって狭窄を起こしている場合には、nidusからの流出障害が生じ、破裂しやすくなります。nidusが小さくdrainerが一本と少ない場合には積極的な治療の対象になります。

左側頭葉に脳動静脈奇形のナイダスを認めます。3本の流入動脈と1本の流出静脈が認められ、流出静脈は曲がりくねって、狭窄しています。このような脳動静脈奇形は破裂しやすいために、流入動脈の血管内外科による塞栓術後、全摘出を行いました。脳動静脈奇形といえども十分な塞栓が行われ、血流が途絶えていれば手術は難しくありません。

術後の脳血管撮影です。摘出した部位に動脈を閉塞したクリップを認め、脳動静脈奇形は完全に摘出されています。

 

この症例は2回のサイバーナイフと2回の流入動脈塞栓術後、脳動静脈奇形が血管腫のような状態に変化し、漏出性の出血と炎症を繰り返すことによって、非常に大きな占拠性病変となっています。右図は術後です。ほぼ全摘されていますが、白く造影されて見えるところは視床に食い込んだ部位であり、一部残してあります。術後再度大きくなれば、2度目の手術で全摘することを考えています。下図の2枚は術中に用いたナビゲーションであり、現在どの部位を手術しているか明確に分かる。なんと言っても脳には道路標識はついていない。

ここで紹介した手術例は、鎌ケ谷総合病院で治療している一部の症例です。どのように難しい症例でも、血管内外科手術、ガンマナイフ、そして二期的手術の組み合わせによって、手術結果は改善できます。

他院で困難な手術と言われた場合には一度ご相談ください。

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