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生体パッチ

生体パッチ

生体パッチの開発は、私が東京女子医科大学脳神経外科に在籍時(1978-2009)に理化学研究所、鈴木嘉昭教授の研究グループと行ったものである。生体親和性のないPTFE(テフロン)にイオンビームを照射することによって、生体親和性を付与する技術を臨床に応用したものである。鈴木先生との最終目標は、直径2mm以下の人工血管の開発であった。 生体内部で利用する人工臓器の最低条件は、1)化学的に不活性で、生体内の組織液によって変化を受けない、2)周囲に炎症や異物反応などの生体反応をおこさない、3)発癌性がない、4)アレルギー反応をおこさない、5)生体内に長時間さらされても、抗張力・弾性などの機能を失わない等である。現在、生体に人工臓器として埋め込みが出来るポリマーは、Gore-Tex(ePTFE)とDacron(ポリエステル繊維:PET)のみである。これらのポリマーは生体内で劣化せず長期に渡って生体に対して無反応である。しかしこの長所はそのまま生体に生着しないという欠点となる。この欠点を克服することが理想的なバイオマテリアルの条件である。 左PTFE:polytetrafluoroethylene、テトラフルオロエチレンの重合体、 右PET:polyethylene terephthalate、テレフタル酸とエチレングリコールの縮合重合

両者の中でも、Gore-Texはすでに人工血管、人工硬膜に応用されており、50年にわたる臨床使用の実績がある。 理化学研究所の鈴木らの功績により、PTFEにイオンビームの照射を行うと、PTFE表面が改質され、線維芽細胞が容易に接着する生体親和性のシートが作成されることが判明した。

(論文1,2)

右が未処理のexpanded PTFE、左はイオンビーム照射後(Ar+)のexpanded PTFE 表面の網目構造は破壊され、突起状の凹凸の表面が形成されている。またこの表面構造にはイオンビーム照射によってフッ素が消失し、炭素が露出するだけでなく、種々の活性型の炭素が出現している。

線維芽細胞がイオンビームを照射したePTFE表面にのみ付着し、さらには扁平化し義足形成をしているのが観察される。未処理のePTFE表面には全く、線維芽細胞は付着しない。

これはイオンビームを照射したePTFE表面に生体接直材であるfibrin glueを塗りこんだものである。Fibrin glueが凹凸の中に浸透し、強く接着しているのがわかる。すなわち、通常のePTFEはfubrin glueで組織に接着させることは出来ないが、ion beam implanted ePTFEはfibrin glueで組織に接着することが出来るのがわかる。

イオンビームを照射したePTFEを生体パッチとして使用した実験

1)人工硬膜としてウサギ頭蓋骨に使用

左図、上面は未照射、下面はイオンビームを照射してあるePTFEでウサギ脳表面にぱっといしてある。下面は新生した結合組織と癒着している。未照射部分は全く癒着していない。

右図、下面接合部の拡大写真である。イオンビーム照射面の凹凸構造に線維芽細胞が密に入り込んでいるのが観察される。(論文3)

2)血管壁損傷の修復

左図、ウサギ頸動脈に1mm程度の穴をあけたところ

右図、血管に空いたホールにion beam implanted sheetを巻き付け、fubrin glueで接着したのち血流を再開した。血液の漏れはなく、また強く巻き付けなければ狭窄もない。

3)血管吻合の時間を短縮したい場合

左図、ウサギ頸動脈(口径1-1.5㎜)を用いて端側吻合を行ところである。吻合は1㎜以上の間隔で行っているので、この状態で血流を再開すると大出血を起こすのは目に見えている。

右図、ion beam implanted ePTFEを風呂敷のように巻き付け、血流を再開した。血流は漏れることなく、狭窄もなく流れているのが確認できる。

4)三叉神経痛の手術MVDに使用するプロステーゼ (論文4)

5)手術時に遭遇する未破裂微小脳動脈瘤のwrappingおよび紡錘状脳動脈瘤のwrap-clipping(論文5,6)

 

この研究で取得した特許

特許一覧

1)発明の名称:細胞接着性を有する人工硬膜およびその製造方法

パテントファミリー番号:554

  • 最終処分:登録
  • 出願人:理化学研究所
整理番号 出願国 登録番号 登録日 権利満了日
9927 IT 1252902 2006/5/24 2022/4/18
9926 GB 1252902 2006/5/24 2022/4/18
9925 FR 1252902 2006/5/24 2022/4/18
9924 DE 1252902 2006/5/24 2022/4/18
9475 US 6872759 2005/3/29 2022/8/4
8954 JP 2001-124294 2001/4/23 2021/4/23

2)発明の名称:生体組織接着剤と親和性を有する生体修復材料

パテントファミリー番号:698

  • 最終処分:登録
  • 出願人:理化学研究所
整理番号 出願国 登録番号 登録日 権利満了日
23634 IT 1535632 2011/8/3 2023/8/29
23633 GB 1535632 2011/8/3 2023/8/29
23632 FR 1535632 2011/8/3 2023/8/29
23631 DE 1535632 2011/8/3 2023/8/29
11112 US 7722934 2010/5/25 2025/1/6
9718 JP 4445697 2010/1/22 2022/8/30

3)動脈瘤治療用材料

パテントファミリー番号:801

  • 最終処分:登録
  • 出願人:理化学研究所・財団法人化学及血清療法研究所・中嶋博
整理番号 出願国 登録番号 登録日 権利満了日
23454 US 8268300 2012/9/18 2024/8/18
20749 EP  1656932 2013/5/1 2024/8/18

4)発明の名称:抗血栓材料及びその製造方法

パテントファミリー番号:317

  • 最終処分:登録
  • 出願人:理化学研究所・中嶋博
整理番号 出願国 登録番号 登録日 権利満了日
7218 US 5906824 1999/5/25 2017/5/15
4693 JP 3536051 2004/3/26 2016/5/17
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