掲載論文2023
2023年に掲載された論文をご紹介します
脳動脈瘤の破裂のメカニズムを究明する画期的な論文です。
非常に死亡率の高い比較的若いヒトに起きる脳卒中にクモ膜下出血があります。その原因は脳動脈瘤の破裂です。現在の医療では、MRAで脳動脈瘤を非侵襲的に簡単に見つけることが出来ます。
しかしここに大きな問題が起きます。100人の健康なヒトにMRAを行うと約2%(2-3名)の方に未破裂脳動脈瘤が見つかるのです。このように偶然に未破裂脳動脈瘤が見つかった場合、最初に誰もが考えるのは、破裂する前に未破裂の状態で治療してしまえば、もうクモ膜下出血の恐れはないと言うことです。しかし、見つかった未破裂脳動脈瘤のうち、実際に破裂するのは年間に1%以下なのです。ほとんどの偶然に見つかった未破裂脳動脈瘤は破裂しないと言うことになります。そして、未破裂脳動脈瘤の治療は、血管内外科治療(コイル塞栓術)、開頭クリッピング術などの方法がありますが、どれも薬を飲むように安全というわけにいきません。どちらも手術なので、入院もしなければなりませんし、手術料は高額になります。いちばんよい方法は、近い将来破裂の危険性の高い未破裂脳動脈瘤だけを治療することです。そうすれば、不必要な未破裂脳動脈瘤の手術は必要ありません。
しかし、未破裂脳動脈瘤がいつ破裂するかを予見するのは、非常に難しいのです。未破裂脳動脈瘤がどのようなメカニズムで破裂するかと言うことは、莫大研究があるにもかかわらずまだ明確にわかっていません。
この疑問に答える研究論文の第一弾がSolitonic Windkessel Model for Intracranial Aneurysm. Brain Sci12,1016:2022です。
この論文では、2階建て動脈瘤(破裂しやすい動脈瘤の形態)が出来ると、力が減衰しないソリトン波が生じて、壁が薄くなった2階建て動脈瘤にぶつかるというものです。まるでチリで起きた地震の津波が、減衰せずに、太平洋を超えて日本にまで到達するメカニズムと同じです。
第2弾の新しい研究論文では、2階建て動脈瘤が出来るとflow mediated resonanceが生じて、強制振動が起きることを数学的に証明しました(Resonance Leading to Unexpected and Sudden Aneurysmal Rupture. Biol. Life Sci. Forum 2022, 19, 17.)。
この2階建て動脈瘤は、クモ膜出血を引き起こす脳動脈瘤だけでなく、高血圧性脳内出血の原因となる細い穿通枝動脈に出来た微少動脈瘤(microaneurysm)の破裂のメカニズムにも当てはまります。
是非興味ある方は、これらの論文に目を通してください。