【医療知識】隠れ貧血
皆さんは隠れ貧血をご存じですか?
貧血の多くは循環血液中の赤血球が減る状態と考えられています。そのため、貧血の診断には1)赤血球数(RBC数)、2)赤血球の中にあるヘモグロビンの濃度(Hb)、全血に対する赤血球の割合(Hct)などでなされます。しかし、これらの数値が正常でも、貧血が進行していることがあります。これが隠れ貧血です。
女性は毎月一回やってくる生理によって、約50mlの血液が失われます。鉄は赤血球の中のヘモグロビンに含まれ、酸素と結合することによって、酸素を身体中の細胞に運んでいます。
赤血球は身体の鉄分が少ないと作られないので、いわゆる鉄欠乏性貧血は、女性に多く認められるのです。若い女性では、生理によって鉄は失われ、男性では中年以降消化器に出来るガンの進行によって消化管出血が起きて貧血が生じてきます。
さらに鉄は、赤血球の中だけではなく、ミトコンドリア内に酵素として存在し、エネルギーであるATPを産生します。隠れ鉄欠乏性貧血では、ミトコンドリアの機能不全が現れます。すなわちエネルギーの足りない状態で、最も多い症状は頭痛と朝の無気力です。
鉄は身体の中に5g程度存在します。無機鉄は還元型のFe2+のみが小腸から吸収されます。この無機鉄は細胞内タンパク質フェリチン(ferritin)に結合し小腸粘膜細胞内に蓄えられます。細胞内のフェリチンが飽和すると、鉄は細胞内に入ることが出来なくなります。鉄が粘膜細胞から出て行く道は一つのみで、血漿中のトランスフェリン(transferrin)が鉄を結合して取り去っていく場合だけです。トランスフェリンが飽和すると粘膜に蓄えられた鉄は粘膜細胞とともに小腸内に剥がれ落ち失われます。鉄の吸収にはこのような小腸粘膜の障壁があるため、食物中の鉄は10%程度しか吸収されず、特に植物性食品からは1~5%しか吸収されません。鉄の吸収を促進させるためにはビタミンCの摂取がよく、薬を飲むときには一緒に飲むのが良いでしょう。また、アルコールや果糖も鉄吸収を増加させます。肉から吸収される鉄はヘム鉄といって、別ルートで吸収されるため無機鉄に比べてその吸収率は高いです。ヘム鉄は保険診療では処方できないので、サプリメントを利用するしかありません。無機鉄でもヘム鉄でもカルシウムによる吸収阻害があるので、食事の時に一緒に牛乳を飲むと鉄の吸収率はほとんど期待できなくなりますので、気をつけてください。